クライアントに納品した成果物を、自分の作品としてSNSで公開していい?

契約

業務委託された作品を公開するときの注意点

あなたはデザイナーです。A社から依頼されたデザインを作成して納品しました。
A社がそのデザインを公表した後、あなたが自分のSNSにそのデザインを作品例として掲載したい場合、何に注意すべきでしょうか?

①デザインが自分の作品であることを明記すること
②契約書に掲載してはいけないと書かれていないか確認すること
③自分の公表権を行使すること

1 / 1

ヒント
「公表権」は著作者人格権の一種です。名前だけ見ると「公表する権利」に見えますが…

Your score is

The average score is 83%

0%

解説

あなたの作品をクライアントであるA社が最初に公表した場合、A社が公表権を行使したことになります。公表権とは「一番最初に公表する権利」であり、「自分の作品として公表する権利」ではないことに注意しましょう。
あなたが自分のウェブサイトやSNSにその作品を掲載したい場合、まず契約書を確認し、作品を掲載してはいけないという条項がないことを確認する必要があります。もし契約書にそのような制限がある場合、無断で公表することは契約違反となる可能性があります。

正解: 2. 契約書にデザインを掲載してはいけないと書かれていないか確認すること

作品(問題中ではデザイン)を掲載する前に、以下の点に注意しましょう。

  • 契約書の内容を確認し、掲載の可否を確認する
  • 必要に応じてクライアントの許可を得る
  • 事前に専門家(行政書士や弁護士)に相談する

クライアントから損害賠償を求められる前に、契約内容や権利関係を確認しておくことが重要です。事前に専門家に相談することで、後のトラブルを避けることができます。

契約書に「著作者人格権を行使しない」と書いてある!?

こうした相談が寄せられる背景には、契約書に『著作者は著作者人格権を行使しないこと』と記載されていることが多いためだと考えられます。著作者人格権は、著作物を創作した人がその作品に対して持つ特別な権利です。著作権とは異なり、著作者人格権は他者に譲渡できないことは、すでにご存じの方も多いと思います。
著作者人格権には次の3つの主要な権利が含まれます。

  1. 公表権
    • 著作者が自分の著作物を最初に公表する権利です。例えば、デザインを最初に公開するタイミングや方法を決めることができます。
  2. 氏名表示権
    • 著作者が自分の著作物に自分の名前を表示する権利です。逆に、匿名やペンネームで作品を発表することもできます。
  3. 同一性保持権
    • 著作者の許可なしに著作物を改変されない権利です。これにより、デザインやイラストが意図しない形で変更されることを防ぐことができます。
  4. 名誉声望を害する方法での利用を禁止する権利
    • 著作者の名誉を害するような方法で著作物を使用されることを禁止する権利です。使ってほしくない場所で著作物の利用をさせないようにすることができます。

クリエイターであれば、デザインやイラスト、プログラムといった作品をクライアントから依頼されて作成した場合に、その作品を自分のポートフォリオに加えたい!という場面があるかと思います。
「著作者人格権を行使しない」と契約書に書かれているだけであれば、自分の作品として掲載することは問題ないといえます。しかし、他の条項に「成果物を自身の作品として掲載しない」と書かれている可能性もありますよね。契約の時点で、クライアントに確認を取ることが自分を守ることにもつながります。

短くてシンプルな方が著作権が弱いって本当?

例えばプログラムを作成する際、凄腕プログラマーが組むコードほど短く、シンプルなものになることが多いです。しかし、プログラムが短いと著作権が認められにくいといった事例があります。
著作物は「創作的」である必要がありますが、この「創作的」との要件については、裁判例で次のように示されています。

「創作的に表現したものというためには、当該作品が、厳密な意味で、独創性の発揮されたものであることは必要でないが、作成者の何らかの個性の表現されたものであることが必要である。文章表現に係る作品において、ごく短いものや表現形式に制約があり、他の表現が想定できない場合や、表現が平凡、かつありふれたものである場合には、筆者の個性が現れていないものとして、創作的な表現であると解することはできない。」

(東京地方裁判所平成11年1月29日判決)

この裁判例からも分かるように、「創作的」といえるためには、表現に何らかの「個性」が必要となります。(ちなみに裁判官はプログラムやデザインに詳しい方ばかりではないので、親身になってくれることを過度に期待しない方が良いです)

創作的な個性の重要性

プログラムのコードが短くシンプルであればあるほど、個性を表現することが難しくなり、その結果、著作物としての保護が認められにくくなります。定型的なプログラムでは、「個性」を表現することができず、著作物性が認められません。デザインも同様で、シンプルなものは著作物性が認められにくく、仮に真似されたとしても「偶然似ただけ」と言われ逃げられてしまう懸念があります。

これに対して、複雑で独創的なプログラムやデザインは、創作者の個性が強く反映されており、著作物として認められる可能性が高くなります。しかし、プログラムやデザインのシンプルさを追求することが優れた技術である場合も多く、その結果として著作物性が認められにくいというジレンマが生じます。


真似されやすい時代だからこそ

優れた作品ほど人の目につきやすく、真似されやすい時代です。そのため、作品を作成した際には必ず中身を保存し、自分が作ったものであると証明できるようにしておくことが重要です。特にクライアントから依頼されて作品を制作する場合、クライアントが提示してくる契約書は、クライアントに有利な契約書になっていることがほとんどです。誰かに著作物を譲渡する際には必ず契約書を確認し、自分にとって損がないかを確認し、必要であれば条項の修正を相談しましょう。

行政書士事務所ユアウィルは、クリエイターの権利を守り、安心して創作活動に専念できる場所を作るお手伝いをしたいと思っています。何か疑問や問題が生じた場合は、お気軽にご相談ください。